日本古典文学大系月報4
「大系」月報4は第13巻『落窪物語・堤中納言物語』の附録(昭和32年8月)。
奥平英雄「絵巻と物語」
「源氏物語の中には、当時存在していた作品として「からもり物語」、「藐姑射刀自物語」、「竹取物語」、(……)「せりかは物語」、「朱の盤物語」「長恨歌物語」などの絵巻の名を記している。「源氏物語」は多分に虚実をとりまぜて作られた物語ではあろうが、しかし以上の絵巻の諸作は実際に世に存していたと考えていいものと思う。此の中の「竹取物語」については「絵は巨勢の相覧、手は紀の貫之書けり。紙屋紙に唐の綺を配して、赤紫の表紙、紫壇の軸」と記し、「宇津保物語」については「白き色紙、青き表紙、黄なる玉の軸なり。絵は(飛鳥部)常則、手は(小野)道風なれば、今めかしうをかしげに、目も輝くまで見ゆ」と記してある。これらの作品は今日伝存せず見るべきよしもないが(……)それがいかに繊麗をきわめた芸術品であったかは、想像に絶するものがある。」
実在していたであろう、ということだが、もし実在していなかったら、それはそれでとても面白い(文学史・美術史的には勘弁してほしいだろうが)。フィクションなら何でも書けるのだ。(ボルヘスやレムのように)本はもちろん、絵画でも、実在の監督が実在の俳優を使った架空の映画だって〈存在〉させられる。もし紫式部が「あったらいいな」で書いたなら非常に楽しいが、なんとなくそういう人ではないような勝手な印象がある。